2006/10/26

歓迎ぜめ

□ 出典

『ちぐはぐな部品』星新一著、角川文庫、2006年


□ あらすじ

宇宙調査船が降り立った星には、人間の半分ほ
どの身長で長い尻尾を持った住民が暮らしてい
た。
調査隊員の持つ熱線銃に怯える住民と、半ば優
越感に浸り、星の調査、そして開発へと思いを
馳せる隊員たち。やがて住民が、食べ物を持っ
てきて後ずさりした。それを優れた文明の持ち
主に対する捧げ物と解釈し、親善を示すために
と隊員たちは口に入れる。すると、またも新た
な食べ物が。
はたして住民の真意はどこにあるのだろうか?


□ 感想(未読の方はご注意!)

絵画の展示即売会に行かれたことがあるでしょ
うか。デパートや繁華街で、スーツを着た若い女
性が絵葉書を配って客引きしているあれです。私
は、商業的な絵画があまり好きではなく、また画
廊は街角にひっそりと佇んでいていてほしいと思
っているので、声を掛けられる度にそう説明し、丁
重にお断りしています。それでも、差し出したもの
を引っ込めてはいけないことになっているのか、絵
葉書は持たされるので、見てみると、案の定有名
画家の極彩色の海中画だったりして、うんざりしま
す。
ただ、世の中には私のように偏屈な人間もいれ
ば、誘われたら断れないという方もいらっしゃる
ようです。たまたまそういう方から、展示即売会
の様子を聞く機会がありました。その方によると、
展示即売会とは絵画展覧会とは違い、絵のアピー
ルをして美術への関心を高めようとする場では
なく、いかに高い絵を買わせるかという、単なるセー
ルスの場だそうです。営業員はまず、お客と世
間話をし、それから徐々にお客の趣味や住環境に
ついて尋ね始めるそうです。そして、そのうちのど
こかに取っ掛かりを見つけると、一気にセールストー
クを開始し、あれよあれよという間に、お金の話
になるのだとか。お客のほうは営業員に上手く乗せ
られて、気持ちよく喋っているので、つい抜け出す
機会を逸してしまうのでしょうか。
今回、宇宙調査船が降り立った星の住民は、調
査隊員たちを捕らえるために、わざと下手に出ま
した。食べ物の質を徐々に高め、量も増やしなが
ら地面に置き、その都度後ずさりして、落とし穴に
誘導していったのです。それに気づかずいい気に
なっていた隊員たちは、あえなく捕らえられてしま
ったのです。
下手に出るというのは、実利を得るための極意
のようです。これはプライドの問題ではなく、単な
る技術だそうです。ぺこぺこ頭を下げてでも、相
手にお金を出させれば自分の勝ちというわけで
す。たしかに、資本主義経済では、有形・無形を
問わず何かを売らねば全く評価されないので、
頭を下げる技術を身につける必要があるのかも
知れません。
ちなみに私は、人に頭を下げるのが苦手です。
もちろん、私に非があって謝らなくてはならない
ときは別ですが。自分の利益のために、頭を下
げて譲歩を引き出すということができません。
しかも偏屈なので、下手に出られると警戒心が
募ります。全く損な性格だと思いますが、なかな
か直せないものですね。

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